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「民主主義のありかた」

『サンガ』198(2025年11月)p.06


森達也「世界はもっと豊かだし、人はもっとやさしい」vol.6より

「民主主義のありかた」

 政治と宗教の話は人前でしてはいけない。

 日本に暮らしているとよく聞く警句だ。なぜ人前でしてはいけないのか。支持政党や信仰が違うと争いのもとだから、ということなのだろう。ならばきわめて日本的だ。で、それでいいのか。興味や関心は衰退しないのか。

 戦後日本において政権交代が起きた年は、1993年と1994年、そして2009年だ。実質的には2回だが、1回目の政権交代の際には阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が、2回目の民主党政権時代には東日本大震災が起きて、当時の与党は支持率を下げて自民党は早々に政権与党へと復帰した。

 つまりこの国は、普通選挙を持つ民主国家でありながら,政権交代がほとんど起きない希有な国だ。投票率も先進国の中では例外的に低い。でも今年七月の参院選で、その歴史が大きく揺らぐ瞬間を僕たちは目撃した。

 公職選挙法でメディアは公正中立に報道することを規定されている。そう考える人は多いが、実は公職選挙法にそんな規定はない。一般的な報道については「できる限り公平を期するように」との努力目標は記されているが、これは規定やルールではない。つまり選挙期間中にマスメディアが沈黙する理由は自主規制なのだ。

 放送における政治的公平性を義務付けたフェアネス・ドクトリンを言論の自由を妨げるとして1987年に廃止したアメリカでは、テレビ局や新聞社など各メディアはもちろん、多くの著名な俳優やミュージシャン、スポーツ選手などが自身の政治的立場を公言する。もちろんアメリカ国民の多くも隠さない。そして議論する。その上で選挙が行われる。

 日本の場合、著名人だけではなく多くの人が、自分が支持する政党や候補者の名前を明かさない。そしてマスメディアは公正中立幻想で自らを縛り付けて沈黙する。

 闊達な議論の上で投票する。沈黙しながらSNSの影響ばかりを受けて投票する。どちらの民主主義が成熟するか。答えは明らかだろう。


echo : 既存の法律が人びとの思想信条に深い影響を与えている好例だと思います。

 
 
 

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